『時々タイムスリップ』 柿
2005年 11月 26日
ドアに寄りかかっている僕は、東へ進む通勤電車の中。
南西の空の低いところで月が消滅しかかっている。
キラリと光る太陽があと少し上れば、月はまた次の国で見られたり見られなかったりするだろう。
しかし晴れてるなー。
停車した駅。
窓のすぐそこに柿の実が熟れている。
多分、シブガキ。
柿は、市販されてるやつのようにさくさくと食べれるやつもあれば、食べると口がムチュ〜とタコチュウのようになるやつ(シブガキ)もある。
子供の頃よく木に登り、柿をとって食べてはタコチュウになったものだ。
そこらへんに生えている柿で、生で食べれる柿は少ないんだ。
この柿は?
ちょっと挑戦する気になれないなぁ。
柿といえば思い出す人物がいる。
小学生の頃、よく遊んだ「つよし」だ。
近所に住む4つ下のつよしとは相性がよかったのだろう、年が離れているにも関わらず毎日のように遊んだ。
福岡の片田舎に住む僕らの遊び場は、主に山や川。
ある時、山の開けた場所で「かくれんぼ」をしていたんだ。
だけど、つよしだけがなかなか出てこない。
探すのに飽きた僕は、そこらへんに落ちていた青い柿を林に向かって「ていっ」と投げた。
たった一個だよ。
「いでっっ!」
命中するのである。
頭を押さえて泣いているつよしの側に、割れた青い柿が落ちていた。
つよしはまるで「のび太」みたいなやつなんだ。
【埼玉県高麗(こま)にて】
初冬の高麗に人影はない。ここは開けた山間。
子供の頃よく遊んだ裏山を思い出させるんだ。
いつだったか、「缶けり(かくれんぼのレベルを上げたような遊び)」をやっていた時。
やっぱりつよしだけが見つからないんだ。
当時、缶けりのプロ(自称)とまで言われていた僕は、どんなところに隠れたやつでも見つけることができた。
そんなプロ。
鬼役としてのプライドをかけて、つよしの発見に全力で走りまわった。
しかし見つからないんだ。
やがて探すのに飽きた僕らは家に帰った。
しかしその夜、つよしが帰ってこないと近所中大騒ぎになった。
僕は少年ながら、責任を感じていた。
近所中必死の捜索の末、やつは自宅の犬小屋から発見された。
犬とともに熟睡していたらしい。
缶けりのプロ、ありけん少年。完敗の一日であった。
【高麗川にて】
今日は水かさが少ない。
ぴょんぴょん石を跳び越えて向こう岸に渡れたよ。
水中にも水面にも、落ち葉。
想い出はどんどん溢れてくるよ。
こんなこともあった。
学校の帰り道、つよしは「目をつむって歩く」という意味不明の特訓をしていた。
見てて面白くなった僕は「よし!おれが右左と言っちゃーけん、そのまま歩きー」
とナビを始めたんだ。
普通、人は目をつむると恐る恐る歩くものである。
しかしつよしは嬉しそうにずんずん歩いてゆく。
「もうちょい右!ダメダメ左!そうそう真っすぐ」
全く恐れずにずんずん歩いてゆくその姿を見て、僕は思ったんだ。
(こいつ、絶対に薄目してんな〜)
やがて、小川の橋が見えてきた。
小さな川の小さな橋に柵なんてない。
(フフフ…よし)
ずんずんずんずん
そして橋の上にきた時、僕は最後のナビとなる一言を発する。
「そこで左!」
ぼっちゃーん★
つよしは、目をつむったまま嬉しそうに90度曲がって。
「ストップストップ!」
あわてる僕の声も間に合わず、のび太みたいに川に落ちてしまったんだ。
僕を信じてたんだね。
泣いているつよしを引っ張り上げて謝ったよ。
【レモン?みかん?】
固そ〜。いずれにせよ食べると口がタコチュウになること間違いなし。
僕が高校2年になった頃、つよし家は引っ越していった。
2、3時間程の距離なので一度遊びに行ったが、それ以来。
場所も覚えてないよ。
入学したばかりのブカブカの制服を着て、照れ笑いしている。
僕の中のつよしはそこでストップ。
ちっとも大きくなってない。
今頃、どこで何しているかね。
立派な大人になって、しっかりと働いているだろう(たぶん)。
もし、このままずーっと会えなくても。
つよしは、また僕の中で生き返るだろう。
今日みたいにね。
どこかの町、初冬のバス停。
白い息を吐いてバスを待っているつよしの頭上にも、熟れた柿がぶら下がってるかもね。
べちっ!
「うげっ」
あいつの頭を直撃したりしてるかも。
ありがとう
君と出会えてよかった
南西の空の低いところで月が消滅しかかっている。
キラリと光る太陽があと少し上れば、月はまた次の国で見られたり見られなかったりするだろう。
しかし晴れてるなー。
停車した駅。
窓のすぐそこに柿の実が熟れている。
多分、シブガキ。
柿は、市販されてるやつのようにさくさくと食べれるやつもあれば、食べると口がムチュ〜とタコチュウのようになるやつ(シブガキ)もある。
子供の頃よく木に登り、柿をとって食べてはタコチュウになったものだ。
そこらへんに生えている柿で、生で食べれる柿は少ないんだ。
この柿は?
ちょっと挑戦する気になれないなぁ。
柿といえば思い出す人物がいる。
小学生の頃、よく遊んだ「つよし」だ。
近所に住む4つ下のつよしとは相性がよかったのだろう、年が離れているにも関わらず毎日のように遊んだ。
福岡の片田舎に住む僕らの遊び場は、主に山や川。
ある時、山の開けた場所で「かくれんぼ」をしていたんだ。
だけど、つよしだけがなかなか出てこない。
探すのに飽きた僕は、そこらへんに落ちていた青い柿を林に向かって「ていっ」と投げた。
たった一個だよ。
「いでっっ!」
命中するのである。
頭を押さえて泣いているつよしの側に、割れた青い柿が落ちていた。
つよしはまるで「のび太」みたいなやつなんだ。
初冬の高麗に人影はない。ここは開けた山間。
子供の頃よく遊んだ裏山を思い出させるんだ。
いつだったか、「缶けり(かくれんぼのレベルを上げたような遊び)」をやっていた時。
やっぱりつよしだけが見つからないんだ。
当時、缶けりのプロ(自称)とまで言われていた僕は、どんなところに隠れたやつでも見つけることができた。
そんなプロ。
鬼役としてのプライドをかけて、つよしの発見に全力で走りまわった。
しかし見つからないんだ。
やがて探すのに飽きた僕らは家に帰った。
しかしその夜、つよしが帰ってこないと近所中大騒ぎになった。
僕は少年ながら、責任を感じていた。
近所中必死の捜索の末、やつは自宅の犬小屋から発見された。
犬とともに熟睡していたらしい。
缶けりのプロ、ありけん少年。完敗の一日であった。
今日は水かさが少ない。
ぴょんぴょん石を跳び越えて向こう岸に渡れたよ。
水中にも水面にも、落ち葉。
想い出はどんどん溢れてくるよ。
こんなこともあった。
学校の帰り道、つよしは「目をつむって歩く」という意味不明の特訓をしていた。
見てて面白くなった僕は「よし!おれが右左と言っちゃーけん、そのまま歩きー」
とナビを始めたんだ。
普通、人は目をつむると恐る恐る歩くものである。
しかしつよしは嬉しそうにずんずん歩いてゆく。
「もうちょい右!ダメダメ左!そうそう真っすぐ」
全く恐れずにずんずん歩いてゆくその姿を見て、僕は思ったんだ。
(こいつ、絶対に薄目してんな〜)
やがて、小川の橋が見えてきた。
小さな川の小さな橋に柵なんてない。
(フフフ…よし)
ずんずんずんずん
そして橋の上にきた時、僕は最後のナビとなる一言を発する。
「そこで左!」
ぼっちゃーん★
つよしは、目をつむったまま嬉しそうに90度曲がって。
「ストップストップ!」
あわてる僕の声も間に合わず、のび太みたいに川に落ちてしまったんだ。
僕を信じてたんだね。
泣いているつよしを引っ張り上げて謝ったよ。
固そ〜。いずれにせよ食べると口がタコチュウになること間違いなし。
僕が高校2年になった頃、つよし家は引っ越していった。
2、3時間程の距離なので一度遊びに行ったが、それ以来。
場所も覚えてないよ。
入学したばかりのブカブカの制服を着て、照れ笑いしている。
僕の中のつよしはそこでストップ。
ちっとも大きくなってない。
今頃、どこで何しているかね。
立派な大人になって、しっかりと働いているだろう(たぶん)。
もし、このままずーっと会えなくても。
つよしは、また僕の中で生き返るだろう。
今日みたいにね。
どこかの町、初冬のバス停。
白い息を吐いてバスを待っているつよしの頭上にも、熟れた柿がぶら下がってるかもね。
べちっ!
「うげっ」
あいつの頭を直撃したりしてるかも。
ありがとう
君と出会えてよかった
by ak-essay
| 2005-11-26 22:59