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有田健太郎のエッセイコーナーです


by ak-essay

時々タイムスリップ『インテリありけん』

 コンビニ店内を歩いていて、『フレンドベーカリー』というお菓子を見つけた。
手に取ったありけんの頭は、すでにタイムスリップを始めていた。


 高校の頃、記憶するに女子はいつもお菓子を食べていた(大人になっても女子はたいてい何か食べている)。
当時、そんな女子高校生の間でブームとなったのが、この『フレンドベーカリー』だった。
それは片側にチョコが塗られた、サクサクのクッキー菓子。
ラーメンやポテロング、サラダ一番ならまだしも、甘いものがあまり好きではなかったありけんにとっては、全くどうでもよいことだった。

 高校3年夏休み、部活(バスケ部)を引退したありけんは、毎日学校に出て勉強をしていた。
いや、勉強していると錯覚していただけで、実際はただ校内をふらふらしていただっけだった。

 休日の教室には、家でも図書館でもなく教室で勉強しようという仲間が各クラス数人ずついた。
その仲間にも2通りあって、『ちゃんと勉強をしていて、頭が良いグループ』と『まじめな仲間にまぎれて頭が良くなった気になっている、バカグループ』に分類されていた。
 もちろんありけんは後者グループである。
誰もいない教室で教科書を開いていると、いかにも勉強している気になれたのだ。


 学食が休みのため、お昼は近くのコンビニへ向かった。
普段使わない頭をたくさん使ったせいか、とんでもないものを買ってしまった。

 午後、ありけんの机の上には噂の『フレンドベーカリー』が置かれていた。
おおー、なんだこのこそばゆいような感覚。
 さらに、飲み物もいつもは60円の『ピクニック』のヨーグルト味(そんなのがあった)と決まっていたのに、その日机に置かれたのはまさかの『午後の紅茶』(午後ティー)であった。
 おおー、こんな机を男子仲間(バカグループ)に見られたらなんと言われることだろう。

 しかし、初めて食べるフレンドベーカリーの味は新食感で甘すぎず、感動的だった。
こりゃ、小さくても90円するだけのことはあるな。

 初めてダテ眼鏡をかけたようなような感覚。
体育部で過ごしてきたありけんは、この不思議な感覚を『インテリ』と位置づけた。
おおー、インテリやんか俺(バカ)。

 時折ゆっくり膨らむクリーム色のカーテン。
 グラウンドからこだまして聞こえる野球部のノック。
 どこかの教室で起こった笑い声。
 吹奏楽部のパート練習の響き。
 誰もいない教室。

 普段は授業なんて全然聞いちゃいない。
しかしこの時初めて、机に向かって勉強するのも悪くないなと思った。

 机の上にはクッキーと紅茶。
すこし大人になった気がしたのだ。


 動き始めた地下鉄は休日とあって空いていた。
ありけんは懐かしいフレンドベーカリーを食べてみた。
あれ、こんなに小さかったかな?
もっと感動的なインテリ味(どんな味だ)だった気がしたけど、、。
 そんなものである。
想い出がハードルを上げ過ぎたのだ。

 向かいの乗客が降りると、フレンドベーカリーをサクサク食べているいい大人が映っていた。
こ、これは、、インテリどころではない。

 少ししゃんとして次の仕事に取りかかるのであった。


 今でも午後にパソコン仕事をやるときは、クッキーとコーヒーを置いてしまう。
もしかしたらあの頃にインプッットされた勉強モードが起動するからかもしれない。
by ak-essay | 2010-10-14 07:27