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有田健太郎のエッセイコーナーです


by ak-essay

星ってこんなにあったんだ

カランコロン、カランコロン…
靴で歩いてもこんな音はたたない。
だけどそんな感じ。
浴衣を着てゲタを履いて散策しているような、心地よい感じ。

「星ってこんなにあったんだ…」
見上げたダークブルーの半球には、幾種ものビーズをばあっと散りばめたような星達がチカチカと瞬いていた。

一人旅の最終日、山形県の新庄市で一泊することにした。
ホテルを決め、せっかくだからと深まってきた夜の町へ散歩に出かけることにしたのだ。

少し歩けばすぐに暗闇の街灯小道。
秋進む虫の音は、陶酔しきった一人のバイオリン弾きが奏でる音の様。
チロチロと落ちては流れる水音は、小人達がその小さな、だけど果てしない世界で遊んでいる声の様。
東京へ移ってもう10年、なんだか久しぶりに星空を見上げたような気がする。
あれはカシオベア、あれは北斗七星、あれはベガ、あれは…
昔はよく屋根に寝転んで眺めていた星座や星の名も、ずいぶん忘れてしまっている。

実家は福岡県の田舎町。
父は天体が好きだった。
よく僕を庭に呼び出しては、あれはなに星、あれはなに座と難しい説明を添えて熱心に教えてくれた。
子供だった自分からすれば、大好きなテレビ番組を見ている最中に呼び出され、興味もない天体授業を強制的に受けさせさられるのは迷惑な話だった。
星座早見表を持たされ、夏は蚊に刺されながら、冬は凍えながら。
我が家に望遠鏡がやって来た時なんて、それは頂点を極めた。



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【東京は西の方、東村山。木漏れ日の下】




「ハレー彗星を見に行くぞ」
1986年早春、深夜。そう言われ車に乗せられて数時間。
大分県の山中で降ろされた僕の口は、きっとポカンと開いたままだったろう。
寒くないようにと着込まされ、膨らんだスズメのようになった僕の瞳には、宇宙の入り口が映っていた。

「星ってこんなにあったんだ…」
吸い込まれそうな、じんましんが出そうな、まるで宇宙に立っているような衝撃。

「こりゃ、いるよ。宇宙人」
以前、宇宙人の存在についてクラスで話題になったことがあった。
真剣に考えたのだが、アニメなどに出てくる宇宙人はアニメの世界であって、現実として考えた時にそれはウソくさく思えた。
しかし、この宇宙の入り口は、あまりのスケールの大きさをもってして僕の考えを一変させた。

父はもちろん、大勢の観測者達が望遠鏡を覗き込んで白い息を吐き立て、あーだこーだと言っている真夜中の野原は、暗くて寒かった。
しかしその丘は、満天の星明かりの下、夢に満ちあふれてキラキラしていた。

流れ星を初めて見た僕は嬉しくてしかたがなく、ひたすらその数を数えていた。
さらに、散りばめられた星の輝きは何十、何百年も前のものだという。
今現在、あの星がどうなっているのか知りたくても知ることができないもどかしさや、いつか知ることができるのか?という期待、地球や人間のちっぽけさに驚き、興奮した。
なんてったって世界が変わったのだから。

しかし、父に呼ばれていざ対面したハレー彗星は、なんだかインパクトに欠けていた。
一応驚いては見せたのだが、僕にとっては見上げてそこにある宇宙の方が素敵だった。



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【実はツタはツル科の木。紅葉もきれい】




カランコロン、カランコロン…
飲屋街の賑わいが遠くに聞こえる。

「星ってこんなにあったんだ…」
やっぱりいるな、宇宙人。

あれはペガスス、あれは北極星、あれはアンドロメダ、あれは…
んん〜、忘れている。

見上げる星空がどこか暖かく懐かしいのは、父との想い出があるからかもしれない。
ありがとう。

あの時、首が痛くなるくらい見上げた星空。
宇宙という時の流れに比べれば、自分たちの一生なんてほんの瞬きのようなものかもしれない。
あっという間で儚いくらいだ。
だけど未来、何百光年と離れているあの星へ行けたりするかもしれないね。

いつか自分が父親になれたら、子供がブーブー言っても宇宙の入り口を見に山へ連れてゆこうと思っている。



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【バサバサバサ、バサァー。蹴り上げてみると懐かしい匂いがした。】

by ak-essay | 2009-12-01 02:49